2007年04月06日

宋文洲の傍目八目 入社式で「おめでとう」と言う“間違い”

2007年4月6日(金)09:00

 「諸君、入社おめでとうございます」

 入社式でよく言われる挨拶ですが、なぜでしょうか。16年前、僕も入社式で同じことを言われました。しかし、なんと3カ月後にその会社は倒産してしまいました。

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潰れる会社への入社

 1990年、北海道大学で博士課程を修了した僕は帰国する予定でしたが、運命から日本の会社に入社しました。社員は200人ほどの中小企業でした。知人の紹介で社長と知り合い、親切な人柄と熱意にひかれて、その会社に入社を決心しました。教授が紹介してくれた大手企業を断る時、教授からこう言われました。

 「君が探した会社はいつ潰れるか分からないぞ」

 入社式の後、新入社員の教育を受ける際、博士号を取って28歳にもなった僕は、専門学校を卒業した大半の他の新入社員と全く同じ扱いを受けました。「同級生」の彼らに僕は「国立大学の博士号も持っているあなたが、なぜこんな会社に入るの」「何か特別な狙いがあるのか」と聞かれました。

 この時、彼らは良い会社に行けないから、仕方なくこの会社に入ったことに気づきました。急に社長や幹部たちから聞かされる「おめでとう」や「1日も早く、先輩に近づくように努力してほしい」という言葉が空しく聞こえてきました。

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 3カ月後のある日、社長がやつれた顔で僕にこう言ってきました。「宋さん、申し訳ない。不渡りを出しました」。ビジネス用語を知らない僕は、不渡りをてっきり「渡り鳥が飛んで来ない」と勘違いしてしまったのですが、事態を把握するのに時間を要しませんでした。呆然と社長の顔を見ていると、なぜか入社式の際に彼が述べた「諸君、入社、おめでどうございます」とい挨拶が耳元に響きました。


従属関係の刷り込み

 僕の入社は結果的に、めでたいものではありませんでした。ですが、入社は元々めでたいものでも何でもないと感じていたので、社長を非難する気になりませんでした。むしろ夜逃げしなければならない社長とそのご家族のことが気がかりでした。会社が倒産してしまったこともあり、僕は生活のため、北大時代に開発した土木解析ソフトの販売を始め、それで得た資金を元手して、92年にソフトブレーンを創業しました。

 入社早々、こうした経験をしたこともあり、それ以来、僕は常に経営者の立場から日本企業の入社式と新人教育を見てきました。すると、入社式は「同質従属型」の人間を作る最初の儀式と思えるようになりました。

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 会社の大小、良し悪しに関係なく、社長が新人に「おめでとうございます」と語るのは、会社もしくはそこの経営者の立場が上で社員は下にあり、社員は主である会社ないし経営者に従う立場にある、ということを示していることになります。その言葉を素直に受け入れる新入社員も新入社員で、これから社会の荒海に自分の小船を漕ぎ出す時に、直面する困難を自ら乗り越えいく心構えを持つことを放棄しているように思えます。

入社直後に愛社精神を植えつける教育をする会社もありますが、それも大いなる疑問を感じます。これを男女関係で例えれば、初めてのデートで、いきなり「自分はこれだけ立派だから、好きになりなさい」と説教するようなものです。愛は本来、対等な立場で生じる自然な感情であるはずです。一方がもう一方に、押しつけるものではないはずです。

 社員が愛社精神を持つこと、そのものを否定するつもりはありません。働くことを通じて社員が会社に自然に愛着心が芽生えることは、とても素晴らしいことです。しかし、会社がまだ何もしていない社員に愛社精神を教育するのは、明らかに従属関係の刷り込みです。


「会社に入る」のではなく、「社会に入る」

 最近、入社式にも出る親御さんがいらっしゃると聞きます。恐らく、そうした親御さんは、入社式を入学式の延長だと考えているのでしょう。

 社長の「入社、おめでとうございます」は校長先生の「入学、おめでとうございます」、先輩が後輩にお茶を汲ませることは、上級生が下級生にジュースを買わせること、技能や能力の異なる新入社員に横並びの給料を支払うのは、生徒に同じ給食を食べさせること  と同じように考えるのでしょう。

 そうした考えの下で育った新入社員は、一度入った会社を退職まで勤めないと学校を中退し、進学できなくなるのと同じ錯覚に陥り、学校の上級生に当たる先輩社員や上司にいじめられても、我慢して会社にしがみつきます。

 こう考えると、本人の意思と言うよりは盲目的に良いと考える終身雇用信仰、精神論主体のマネジメントなど、ビジネス社会における様々な弊害は、入社式から始まっていると言えます。会社は自分の人生を豊かにしていくパートナーではなく、絶対を服従である主人になり、会社のためならどんな理不尽なことがあっても滅私奉公で一生懸命に頑張る。そこに自立心も自尊心かけらもなくなってしまったとしたら、人生の過半を占める社会人生活とは果たして自分の人生の一部と言えるのでしょうか。


地位や役職の前に、パートナーなのか

 人生には成功も失敗も常について回ります。失敗しても希望を持ってやり直せる、いわゆる安倍晋三内閣の言う「再チャレンジ」できる環境を醸成するには、1つは入社式の常識的な光景を変えていくことが必要です。

 入社とは、「会社に入ることではなく、社会に入ることだ」と悟れば、1社でうまくいかなくなったからといって暗くなることもありません。広い社会の海に自分の希望の帆にいっぱい風を送り込んでくれる場所は必ずどこかにあると分かれば、人は変化に柔軟になり、より明るい人生を過ごせるはずです。

 4月初めの今、社会の海に漕ぎ出したばかりの小船たちがたまたまあなたの近くに漂流してきたら、彼らを子分扱いして、お茶汲みやコピー取りばかりをやらすだけではなく、若い仲間として扱ってはいかがでしょうか。そして新入社員の人たちは、先輩社員や直属の上司を地位や役職だけで判断するのではなく尊敬すべきパートナーとして見てみることも大切です。

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posted by hlfn03 at 16:46| Comment(0) | TrackBack(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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